閉店する書店の父娘

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夕暮れ時、村の小さな書店が早くも店を閉じた。店の入り口には貼り紙がしてあった。 (永い間お世話になりました。突然ですが諸事情により閉店することとなりました。本を注文されている方は、お手数ですが今月末までに隣りの自宅玄関より、お受け取り下さい。店主より) 店内は蛍光灯を点けなくても、窓から射し込む夕陽だけで十分明るく、むしろ眩しいほどだった。有線放送を消し忘れたまま、店主である父と唯一人の従業員である娘が、黙々と書棚から返却する本を取り出してはダンボールに詰め込んでいた。射し込む夕陽が店内に舞い上がる埃を際立たせていた。 作業を続けながら、父が娘に聞かせるわけでもなく、独り言のように語り始めた。 「前にインターネットで本が買えるようになった時は、もう駄目かと思ったが、それでも何とかやってこれたもんだ。だけど今回のは致命的だったものな。出版会社が本を作らなくなっちまったんだからな。」 娘も作業の手を休めることなく、しかし父の言葉とは無関係なことを言った。 「さっきお兄ちゃんからね、仕事をクビになったって連絡があった。今月いっぱいで辞めて家に帰ってくるって言ってた。印刷会社だから仕方ないのかもね。お母さんは入院しているし、これから結構大変かもしれないね。」 父は作業の手を止めて言った。 「なんだって?しかしそうか。主に本や雑誌を作っている会社だと聞いていたからな。」 外が暗くなり始めた。娘は蛍光灯を点けた。すると営業中と変わりない感じがなんとなく嫌で、有線放送を止めた。
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