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四方を山に囲まれた小さな村。西の山の下にある小学校から子ども達の元気な声が聞こえる。その中で……、
「アホ多がまた引っかかったぁ。本当にアホだなぁ」
人をバカにした笑い声が裏山中に響き渡る。西の山の林の中、学校の授業が終わり、ランドセルを背負った男の子達に囲まれた1人の男の子がいる。囲まれている男の子・上田蒼多(うえだ あおた)は何とか泣くのを堪えるが、
「こいつ、泣きそうになってるぜぇ」
同級生達は更に笑う。それを聞いた蒼多の大きい黒目がちな瞳からポロポロ涙がこぼれた。
「な、何でボ、ボクの下駄箱の中にた、宝の地図って書いた裏山の地図をお、置いたの……?」
しゃくりながら蒼多は同級生達に聞く。すると、蒼多の目の前にいる体格のいい坊主頭の男の子が、
「本当にアホだな。そんなのある訳ねぇじゃん!信じるお前はアホすぎる!」
と、ゲラゲラ笑って言う。
ま、またボク騙されたんだ……。どうして宝の話を信じるのがいけないんだろう……?
悔しくて、蒼多は大粒の涙を流した。
「バカが泣いてるぅ!信じた自分のアホさに泣いてろよ!」
周りの男の子達は更にゲラゲラと笑う。その時、
「そこ、邪魔」
という凛とした声が聞こえた。蒼多を囲んでいる男の子達が声が聞こえた方向へ一斉に向く。そこにはランドセルを背負ったくせっ毛の男の子がスコップを持って立っていた。男の子達より頭ふたつ分出ている。
「あ、宇賀神(うがじん)……」
男の子達はバツが悪そうな表情を浮かべる。
あ、この間クラスに転入してきた雅(まさし)君だ。
蒼多は泣くのを止めた。雅の大きな二重の目が男の子達を捕らえる。
「どいてくれないと……そこに埋めるよ?」
雅はスコップを振り上げる。
男の子達は背の高い雅の冷たい表情と動作に驚いて、
「やべぇ、逃げろっ!」
と言って、皆一斉に逃げた。その場に残ったのは、雅と蒼多だけ。
も、もしかして助けてくれた……?
蒼多は期待する。
「あ、雅君、あ、ありが……」
「聞こえなかった?どいてくれないと埋めるよ」
「え?ボクも含まれてたのっ!?」
これが蒼多と雅の初めての会話だった。
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