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すると、ちょうど2羽の雀が蒼多の前を横切った。
“小早太郎が帰ってくる。信濃の早太郎の子孫がおばあさんと一緒に帰ってくる”
“おじいさんもそろそろ畑から戻ってくる。そろそろ米粒が貰える頃だ”
聞こえた声に蒼多は驚く。
「何か聞こえた?」
「うん。雀がおばあさんと小早太郎が一緒に帰ってきて、おじいさんは畑から戻ってくるって。米粒が貰えるって喜んでる」
「じいちゃんとばあちゃんは一緒に出掛けたんじゃなかったのか」
と雅はポツリと言う。すると、
「ただいま」
という声が聞こえてきた。
“やった!おばあさんが帰ってきた!”
“やったぁ!”
雀達が喜ぶ。すると、
“オレも帰ってきたぞ”
という声が聞こえた。声が聞こえた方向を見ると、茶色い大きな犬が玄関の前に立っていた。
「雅、お友達が来ているんかい?」
雅の部屋の入り口の障子を開けながら、おばあさんが聞いてきた。蒼多は慌てておばあさんの方を向き、
「あ、お邪魔してます」
と挨拶をした。
「ゆっくりしていきなさいね」
おばあさんは優しく微笑むと土間の方へ行った。
「じゃあ、小早太郎とも話してみるか。おーい、小早太郎」
雅は縁側へ出て、玄関の前に立っている茶色い大きな犬を呼んだ。
“はいよっと。ご飯貰えると嬉しいな。小腹がすいた”
小早太郎と呼ばれた犬はノソノソとこっちへ来る。
「お腹すいてるみたいだよ。ご飯だといいなって言ってる」
蒼多の通訳に雅は頭を抱えた。
「あいつ、食べ過ぎだから気にしなくていいよ」
“食べ過ぎではないっ。ご飯ちょうだい!”
小早太郎が蒼多の前に立つ。
「この犬が小早太郎。山犬の血が入っているんだ。信濃の早太郎の子孫」
“早くご飯ちょうだい!イライラしちゃうぞ!”
雅は蒼多の前に立つ茶色い大きな犬を紹介するが、まるで噛み合ってない。蒼多は思わず笑ってしまう。
「じゃあ、そろそろ本題を話そうかな」
雅はそう言うと、蒼多に部屋の中に入るよう勧めた。
“ねぇ!オレのご飯はっ!”
縁側障子の向こうから、小早太郎の叫びがしばらく聞こえた。
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