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「結局野郎だけで花火大会かよ」
「健が誘ったんだろ?」
「人多いな~。
先に陣取りして正解だったわ」
お馴染の顔。
最初は断ったのに聞き入ってもらえず、結局ついて行く羽目になってしまった。
案の定辺りは大混雑。
日はとっくに暮れて普段なら涼しい時間帯だというのに、祭り独特の熱気に今からどうにかなりそうだ。
それは俺を除いてだけど。
ご丁寧に席の陣取りまでしてやがる。
しかも結構なベスポジ。
何が楽しくて、男だけで地域の花火大会に行かなければならないんだよ。
「…あの」
ふいに聞き覚えのない声が聞こえてきた。
その声の主は浴衣を着た女の子だった。
薄暗くて顔がよく見えないが、恥ずかしそうに俯いてることはわかる。
「俺?」
聞き間違いかと思い、彼女たちと同じ目線になるように腰を落とし、姿勢を低くした。
隣の友達らしき人物が「頑張れ」と拳を立てて応援してる。
その真ん中に立つ女の子はこくんと頷いた。
「この後…暇ですか?」
「…え?」
「いやっ、もしよかったら一緒に花火見れたらなって…」
「えっと…」
目の前の状況を掴むのに少し時間が掛かった。
女の子はぎゅっと唇を噛み締め、俺の返事を待っているようだった。
巾着のひもを持つ彼女の手が震えている。
勇気を出して言ってくれたんだと思うと、いたたまれなくなる。
ちらりと健の様子を伺うように目線を送ると、案の定ばっちり視線がぶつかった。
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