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「待って、そこの僕。マー君っていうの?おしっこよく我慢してたね。ここでしていいから。」
僕のとなりに立っていたポニーテールのお姉さんが、男の子のそばにしゃがみ込むと慣れた手つきでズボンとパンツをおろし、躊躇することなく男の子の小さなおちんちんにビニール袋をあてがった。
「さあ、どうぞ。シーしていいよ、シー。」
男の子は泣きべそをかきながらもお姉さんの「シー」という声とともにビニール袋に向かって勢いよく放尿した。
静かな車両内に、ジョボジョボと男の子のおしっこの音だけが響く。
男の子がおしっこをし終わると、何事もなかったかのようにお姉さんはビニール袋を片付けた。
「偉かったね~、マー君。おしっこ上手だったね。」と男の子に向かってにっこりとほほ笑んだ。
男の子の母親も、電車を降りずに済んで助かったと、お姉さんにお礼を言った。
「いいえ、ママも早くお家に帰りたいですよね。寒いから背中の赤ちゃんも早く家に連れて帰ってあげて下さい。」
彼女は笑顔で答えた。
「おねえちゃん、ありがと~。ばいば~い。」
その母子は、お姉さんにお礼を言ってときわ台駅で先に降りて行った。
そして母子を助けたお姉さんも、何事もなかったかのように5つ先の和光市駅で降りた。
ガラス越しに見た彼女の後ろ姿が、まるで天使のように輝いて見えた。
またいつか、あの天使に出会える日が来るだろうか。
横なぐりの吹雪が、彼女の後姿をあっという間にかき消した。
心がポカポカ温まったのも束の間。
結局僕は川越駅の1つ手前の新河岸駅で下車し、トイレに駆け込んだ。
家にたどり着いたのは、それから3時間後のことだった。
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