Vol.2 行列のできる電車

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徐行運転のためいつもの2倍の時間を掛けて、電車は池袋駅に到着した。 扉が開いてギュウ詰めのトコロテンのように電車から押し出された僕は、人込みの濁流に押し流されながら、階段を少しずつ上って丸ノ内線の改札を出た。 うわぁぁぁぁぁ・・・。 池袋駅の構内は全て人で埋め尽くされて人々で立往生していた。こんな光景を見たのは、3・11の東日本大震災以来だ。 当時、まだ中学生だった僕は、家のテレビの前に噛り付き、家に帰ろうと電車を待ち駅に溢れかえる人々を見た。 今、自分の目の前に全く同じ光景が繰り返されていた。 家に帰るのは容易ではない。『帰宅難民』という言葉が、頭にチラつく。 人が少し流れている方へと進み、自分が次に乗り換える東武東上線方面へと近付いていく。 するとそこも、人人人で埋め尽くされていた。 構内アナウンスが、大雪のため電車の運行本数を減らしホーム内への入場規制が掛かっていると繰り返す。 自分は果たして今日中に家に帰り着けるのだろうか。うそ寒い想像が心を冷やす。 屋根があると言っても、駅構内は外気と通じており吹き込む風も冷たい。今夜の最低気温は確かマイナス3度。 今日は寒くなると思って一応厚めのジャンパーは着てきたが、こんなにも長時間屋外にいることを想定した服装はしていない。 体の芯からじわりじわりと冷えていく感じがする。手足が冷たくなってジンジン痛い。 電車に乗る順番を待つが、一行に行列は前に進まない。 自動改札機のある所までまだ50m以上もある。 周りを見回すと、誰も押し黙ったまま列を乱さず整然と順番を待っている。 僕は周りの様子を伺いながら、日本人はつくづく我慢強いなあと思った。 多分よその国なら抗議で駅員に殺到するか、並ぶのを諦めて池袋の街に繰り出すのではないだろうか。 極寒の中、じっと何時間も電車だけを待てる国民性。 感動する反面、この融通の利かなさにバランスの悪い危うさも感じる。
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