Vol.2 行列のできる電車

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大群の列に並び続け、ついに自動改札口までやってきた。 あともう少しで、電車に乗れる。 冷え切って鈍くなった指先でぎこちなく通学定期をズボンのポケットから取り出した。 改札機を通った人々は、次々にホームへと走り出す。 「ホーム内は雪で滑りやすくなってますから、走らないで下さい!」 駅員を制止の声は、誰の耳にも届いていないかのようだ。 僕も通学定期を改札機にタッチして、ホームへと走り出す。 向かった先には、超満員の電車が待ち構えていた。 これを乗り過ごしたら、次の電車にいつ乗れるか知れたものではない。 皆、必死の形相で次から次へと満員で人でごった返す車両内へと押し入っていく。 僕は、空いていそうな車両をひとつひとつ探してみた。 一番前の車両にほんの少しだけ人垣に隙間が見えた。 僕は何とかその隙間を掻き分けて乗り込む。 ようやく電車に乗り込んだ時、後ろの方で入場規制再開の合図が鳴った。 やれやれ、何とか滑り込めたようだ。 あとは自分の下宿先がある川越まで、この満員電車を我慢するだけだ・・・。 ほっと一息ついた時、その小さな声が車内に響いた。 「ママ~、おしっこ。おしっこしたいよ~。」 僕の立っているドアの そばから車両内へと少し入った真ん中付近に、小さな赤ん坊を背中に背負い4歳くらいの男の子を連れた女性が立っていた。 両膝をすり合わせ、体をくねらせながら男の子が必死に尿意を我慢しているのが見て取れる。 「ねえ、ママ~おしっこしたい。おしっこ~。」 「マー君、あともう少し我慢できない。あとちょっとで電車が出るのよ。」 「だって、でちゃうよう。ママ。ママったら~。」 「困ったわ・・・。さっきミイちゃんのオムツも使ってしまったし。」 車内に緊張が走る。このまま電車に乗りたい母親とおしっこしたいと訴える男の子。 そのやり取りを聞いていて、自分もだんだん尿意を催してきた。 尿意って感染するんだったっけか。 「おい、子供を連れてとっと降りやがれ。」 子供のそばにいた小太りの禿げオヤジが、顔を真っ赤にして怒鳴る。 それを聞いて母親も観念したのか、「じゃあマー君、行こっか。」と列車から降りようした。 母親の背中でスヤスヤと眠る赤ん坊が痛々しい。 その時だった。
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