第5話~啓示

4/4
前へ
/63ページ
次へ
ヨシュア…。 置いてきた、小さな私の子。 月の雫の髪。象牙の肌。 澄んだ空の瞳と…日溜まりの笑み。 ヨシュア…、愛しい子…。 死の床で、ミュセルは幻を追っていた。 心が空を彷徨い身体を手離そうとしている。 苦痛に引き戻され、 ミュセルは恐怖する。 いけない… あの子を引き寄せてしまう…。 あの子を思ってはいけない…。 "選ばれし者、ミュセルよ。 お前の赤子もまた 選ばれし宿命の子…。 流れる同じ血のゆえに、 同じ肉を欲するであろう…。" 怖ろしい悪夢の中、産声を上げたディアン…。 なんと残酷な啓示。 この秘密だけは、誰にも告げることはできない。 私の死とともに、この世から持ち去ってしまえたら…!" 「お母様…」 ディアンの声に、ミュセルは微かな正気を取り戻す。 「…ディアン…約束を…」 力無くつぶやき、娘に手をのばす。 「可哀想な…私の子…」 ディアンが握った母の手は冷たく、死がすでに母の身を蝕んでいることを示していた。 「お母様…置いていかないで…!」 ディアンの呼びかけもむなしく、ミュセルはふたたび虚ろな瞳を空に彷徨わせる。 そして、 ゆっくりとその瞼を閉じた。 唇が微かに動く。 声にはならない。 「…シオ…ン…さま…」 それきり ミュセルは深く沈黙した。 もう二度と彼女の瞼が開かれることはない…
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加