第6話~愛惜

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川のほとり…。 セオルはミュセルを抱きその流れを見つめている。 ミュセル、あなたの悲しみの生は終わった。 あなたの魂は冷たい骸に閉じ込められたまま、虚無の世界へ流されてゆくだろう。 それがあなたの望みか…? 虚無は安らぎか? ふとセオルの中に迷いが生じる。 あなたの心はどこにあったのだ? このまま永久に動かぬ時にまかせ、閉じ込められた魂もろとも骸と共に朽ち果て消滅することを望んでいるのか? この川を遡れば神界に続く。 下れば、海原の底、虚無の国へ。 ミュセル、哀れな宿命の人よ…。 せめてあなたに選択の自由を与えよう。 あなたの魂を骸から解き放つ。 どちらに行くのもあなたの思いのままにするがよい。 セオルは水面の中央にそっとミュセルの亡骸を置いた。 微かな風の気配がセオルの頬を撫でた。 長い時間、川の流れに逆らってミュセルの骸はずっとその場から動かずにいた。 それでよい…。 セオルの瞳にめずらしく笑みが浮かぶ。 あなたの器だったものだけを海原の底に送ろう。 セオルが水面にむかい手をかざそうとした時… つ…と骸が川を下りだした。 ゆっくりと流れに沿ってそれは運ばれてゆく。 ミュセル。 これがあなたの答えか…。 セオルは首を振った。 わたしは人の世に少し長く居すぎたのかもしれない… セオルは深い溜め息とともに何処かへと姿を消した…。
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