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深い闇の中、シオンが何かに飽いたように座っている。
闇の玉座は冷たい…。
もたれるように片肘をつき額に当てられた手、漆黒の絹の髪が象牙の頬を隠している。
怠惰に組まれた脚。
それでもその線に沿って闇色の衣が美しい流れの襞を作っている。
他方の腕は面倒そうに肘掛けから外に投げ出されてはいるが、白く長い指が、その持ち主の意図とは無関係に完璧な美を誇示していた。
幽かに闇の帳が揺れた。
「…。ヨシュアか…?」
シオンは動きもせずつぶやいた。
すっ…と、投げ出された手の甲に何かが触れた。
シオンは瞳を上げ、あたりをうかがう。
微かな気配がシオンの身体を優しく撫でる…。
闇の中で何かが光った気がした。
シオンは呆然とした面持ちで立ち上がる。
"…シオン…様…"
胸に自分の名を呼ぶ声が響いた。
なんと懐かしく優しく美しい声だろうか。
手にあたたかい何かが、ふたたび触れた。
そして一瞬の後、
気配は、
消えた…。
シオンは手の甲を自らの唇に押し当てる。
…微かに濡れていた。
瞼を閉じ、しばらくその感触を愛おしんだ。
「…もう…泣かずともよい…。」
静寂の闇に、つぶやくシオンの声が沁みる。
「許せ…」
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