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「ヨシュア様を見かけませんか…?」
サラは神界を探してまわっている。
「また下に出かけてしまったのではないかしら?」
天女達の答えは皆同じだ。
「しかたのないこと…。この頃は私の言うことなど聞いても下さらない。」
サラは困り果てた顔をしている。
「大丈夫。ヨシュア様は思慮深い方ですもの。心配はいらないでしょう?」
「父君に似て逞しい。賢くて美しくて。」
「できないことなど何一つありはしない。」
天女達は勝手におしゃべりを続ける。
「あ、でも大変!下には野蛮な狩人がいる。もしも矢がヨシュア様に当たったら…」
「いくらシオン様の子でも、矢が胸を貫けば…」
「大変!命を落としてしまう。だってヨシュア様の半分は…」
「半分は…母君の血。人ですもの。」
「しっ…!軽々しく秘密を口にするなんて。もしもヨシュア様の耳に入りでもしたら…」
サラは慌てて皆の話を遮る。
天女達は肩をすくめてあたりを見回した。
「ああ恐い。それよりもシオン様に知られることのほうが大変…。これは口にしてはいけない秘密。」
「そう、秘密。」
皆は唇に人差し指をあてた。
「でも、サラ。ヨシュア様は本当にこのことを知らないと思う?シオン様の子よ。何でもお見通しのような気がするけど…。」
誰かが疑問を口にする。
「…。」
サラは黙ってしまった。
そう…。ヨシュアが不思議に思わぬはずはない。
彼が幼い頃、サラは何度か訊かれたことがあった。
なぜ自分にだけ父がいるのかと…。
妖精や天女は神々が創り主だ。その神々にも創り主はいる。
だが誰もその創り主を"父"とは呼ばない。
"父"を持つのは神界ではヨシュアだけだ。
そして人間界には皆に"父"がいる。
もう一人"母"と呼ばれる者もいる。
その疑問にサラはうまく答えられたためしがなかった。
"シオン様にしかわからぬことでございます。"
何も知らないと答えるほかになかった。
"サラは私の母か?"
一度はそう訊かれたことさえあった。
自分は命じられてヨシュア様のもとに遣わされた。
そのままを答えた。
ヨシュアは不思議そうであったが、無理に問いを重ねることはなかった。
何かが起ころうとしている…。
自分をヨシュアのもとに遣わしたのはセオルだ。
サラはそのときにセオルがつぶやいた言葉を忘れたことはない。
"遥か時の彼方…なにごとかが成就される。
それがよき事か悪しき事か…。
サラよ
注意深くあれ…。"
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