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象牙の肌、月の雫を思わせる銀の髪。
神界に闇が訪れる頃になって、ようやくヨシュアは館に戻った。
サラは黙ってその前に跪く。
「おまえは不思議だな…。」
空の色をした瞳がサラを見つめ笑う。
「ずいぶん注意して戻ったつもりだったが…サラにはすぐにわかってしまう。」
「私はあなたが幼き頃より傍におりました…。それにあなたは陽の光を纏っておられる。闇もあなたを隠すことはできません。」
サラの答えにヨシュアは少しため息をついた。
「では、父もとうに知っておられるだろうな。わたしが禁を破っていることを…。」
「お叱りを受けるのはサラでございます。ヨシュア様、少しは控えてくださいませ。」
「いやだ…。」
「ヨシュア様!」
困り顔のサラを見てヨシュアは幼子のように笑った。
「そのうち、わたしに会って叱らずにはいられなくなる。前はいつだったかな…?父を見たのは…」
どこか寂しげにヨシュアの言葉がつぶやきに変わる。
「そのようなことをなさらずとも…。会いに行かれてよいのですよ…。」
ヨシュアは首を振った。
「父はわたしを嫌いらしいからな…。」
「決してそうではありません。」
「いい。戯れ言だ。」
ヨシュアは笑ってサラに下がるよう手で示した。
サラはヨシュアの前から辞して、ため息をつく。
"シオン様はたしかにヨシュア様を避けておられる…。"
決して嫌っているのではない。
おそらくは陽の光の中にいるヨシュアを見たくないのだろう。
サラはヨシュアの母であるミュセルを知らない。
ヨシュアの瞳は母と同じ色をしているという。
彼の明るく清らかな陽の気は母から譲り受けた質だという。
シオンが闇に住まう神となったのは、清らかな朝の光も、澄んだ昼の空も、美しい黄昏も、そして霞む地平の灰色も、見ずに過ごすため。
ヨシュアはシオンの喪失の証。
シオンが自ら負った傷は、彼自身予想しないほどの深手だったのだろう。
"それにしても…、ヨシュア様がこの頃になって頻繁に下界を訪れるわけは、父君への思いからのみであろうか?"
神界にいても、ぼんやりと心を彷徨わせていることも多い。
サラの胸のざわつきは、なかなかおさまらなかった…。
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