2人が本棚に入れています
本棚に追加
「セオル様…」
のばされた痩せた手を、セオルは握った。
「…死に怯えているのか?」
「いいえ…」
その手の主は微かに首を振る。
「私にとってそれは安らぎになるでしょう…。」
「ミュセル…。」
セオルは哀しげな瞳でミュセルを見つめる。
自らの罪深さを憎み続け、嘆きの淵で生きてきた彼女に、昔のような陽の美しさはすっかり消え失せていた。
変わらぬ澄んだ空の色の瞳は、底のない彼女の悲しみを映しているだけだ。
"ミュセル…哀れな宿命の女よ…。"
セオルは彼女の負わされた残酷な役回りの無情さを思う。
「ミュセル。あなたは"選ばれし者"…。すべては定められていた。」
セオルが言ってやれるのはそれだけだ。
だが、それが慰めになどならないことも、わかっている…。
「選ばれし者…。なぜでしょう?なぜ私が…?いいえ、なぜ私だけではなくディアンにまでそのような運命を下されたのでしょう?あの子が罪の証だからですか…?あの時、ラピウス川に溺れて私も死ねたらよかったのです。そうすれば… 」
ミュセルの瞳から涙が溢れた。
「ミュセル…あなたは、わたしを恨んでいるであろうな…。」
静かな問いにミュセルは切なげに答えた。
自分の言葉がセオルを責めていると気がついたのだろう。
「いいえ…セオル様、決してそのようなことはございません。すべては私の罪のゆえです…。」
我が子ヨシュアに心を残しながら、シュテルを見捨てることもかなわず、共にラピウス川に身を沈めたミュセル。
ミュセルの腕の中で彼は息絶えた。
彼女もまた生を手離した。
そのはずだった。
あのまま見過ごしてやれたら、ミュセルの苦しみはそこで終わっていただろう。
だが、セオルは自分に課されていたことを為した。
「けれどもセオル様。あの子はどうなるのです?」
最初のコメントを投稿しよう!