愛しい人

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「おばあちゃんは目を覚ますって言ったでしょ?」 隣で聞いていた正雄の息子で依子の孫である雄一は得意げに言った。白いベッドに寄りかかって依子の側に来ると、雄一はにっと笑った。 「だって約束したもん。僕の入学式に来て 、その後にご馳走作ってくれるって」 3ヶ月後に迎える小学校の入学式。 雄一はランドセルを買いに行った時、ランドセルがまだ大きく見えて、変だと機嫌を損ねた。ランドセルはいらないから他の鞄を買ってくれと駄々を捏ねて父母を困らせていた。 雄一は両親が共働きだったので、よく依子に預けられていた。だからおばあちゃんっ子で、その時は依子に泣きながらしがみついて離れなかった。 だから依子は言ったのだ。 「おばあちゃん、雄ちゃんがランドセル背負ってくれるなら入学式に行くわ。その後にはお祝いもしましょうね」と。 本当は入学式に来てくれと頼まれたのだが、最近は足腰が悪くなってきたし体調も悪かったので邪魔になってはいけないと思って遠慮した。 でも雄一を宥めるためについ言ってしまった。 それを聞いた雄一は泣き止み、目をパチパチさせ「ご馳走作ってくれる?」と言ってきたのを思い出して、依子はくすっと笑った。 「そうね。約束したものね。おばあちゃん頑張ってご馳走を作るわ。雄ちゃんの好きな唐揚げも筍の煮物も沢山作らなきゃ」 「うん!楽しみ!!」 あの時に泣いていた雄一は満面の笑みを浮かべて入学式を楽しみにしている。 こんな些細なことで喜んでくれる雄一との約束を破るわけにはいかない。 破ったら恨まれてしまいそうだ。 「あの人に会えるのは少なくとも3ヶ月は先になるのね」 首を傾げる二人に対し、ふふっと皺くちゃになった顔で依子は笑った。 あれは死の世界が依子を誘い込もうとして作った世界で、それを止めてくれたのは夫である信二なのだと依子は信じていた。 信二は死んだ自分のためではなく、目を覚まして息子や孫のために、そして依子自身のために生きてくれと願ってくれた。 だから依子は思った。 愛しい彼らの成長する姿をもう少し見ていようと。
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