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と…
「やぁ!立花君!おはよう!」
いきなり、明るい男性の声が社内報をじっと凝視している私の耳に飛び込んで来た。
ハッと顔を上げると、目の前に上司の小林課長が笑顔で立っていた。
「あ、おはようございます!課長」
私は、無理に作り笑いを浮かべながら頭を下げた。
「どうしたんだい?今日は、いつもより早い出勤じゃないか」
と…小林課長は私の前に社内報が広げてあるのを見付けた。
「あ。そう言えば、例の好感度ランキング、今月号だったね!立花君だったら今回も1位だろ!」
どうやら、課長は私が去年、1位から脱落した事を忘れてしまっているようだ。
「い、いえ…それが…」
と、私が乾いた笑顔を見せると、課長も「ん?」と向かいの椅子に座り社内報に目を通した。
「…あ…」
課長は、自分がつい不用意な発言をしてしまった事に気付いたらしく、
「ざ、残念だったね…。
でもほら!やっぱり新人の橋本君に花を持たせてあげなきゃさ!男ドモは一人1票しか投票する事ができないし、もし複数投票オッケーなら立花君も橋本君と一緒に1位になってたに決まってるって!」
「わぁ!!
ありがとうございます!もしかして…今回、私に投票してくれた1票って…課長ですか?」
「あ、もうこんな時間!
ちょっと早いけど僕は先に事務所行くね!じゃあ、今日も一日よろしく!!」
と、課長は私の質問には答えずに、休憩室から出て行ってしまった。
私が知る限り…
なぜか、このイベントで0票を叩き出した女性社員は、今まで一人としていない。
さすがに0票ともなれば、当人も落ち込みシャレにならなくなってしまうだろう。
そこで課長や係長あたりが気を遣ってそういう女性社員に1票を投じ『玉虫色の円満結果』に強引に持って行っている…という噂を聞いた事が有る。
(もしそうなら、投票の意味無いような気もするんだけど…。まあ、社内報編集部も何か円満なお祭りイベントが欲しいのだろう)
「なぁーんか…うまくできてるわよねぇ。このイベント」
恐らく今回、私に一票入れてくれたのは小林課長だろう。
「課長。ありがとうございます」
と、私は呟くと社内報を元の場所に戻して職場へと向かった。
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