言動が二転三転する

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その後、佐野の予想以上に面倒なことになった。佐野の携帯に必要以上に損沼から電話が掛かってきた。やっぱり無理だという怒り気味の電話、頑張って払うことを決意した電話、なんでもない世間話の電話、それらの内容がランダムに一日に何度も掛かってくるようになった。会社にいる時は別の部署にいる井上から同情された。休みの日だろうがお構いなしに掛かってくる。 佐野はうんざりしながら損沼が出ていくことにならないかと願った。しかしなんだかんだ言いながらも意外と約束通り家賃が支払われていた。その後も4ヶ月間滞ることなく引き続き順調かと思われていた。 ある日、いつもながら佐野の携帯に損沼からの着信があった。熱い夏の盛り、他の仕事が忙しくなっていた佐野は着信を無視するようになっていた。それでも結局何度も掛かってくる。イライラしながらも一度出た。 「どうした?」 「あんた私を殺す気か!今までなんとか我慢してたけどもう限界だ。2ヶ月分どころか1ヶ月分だってもう払えやしないからね!」 「いやいや昨日頑張って払いますって言ってたでしょ。なんでそんなにいちいち言ってることが変わるわけ?払えなかったら出ていってもらうだけですよ。」 それはその頃、いつもと変わりない会話だった。佐野は毎日のように掛かってくる電話での会話の端々から損沼の事情を否応なしに知ることになった。身内は遠い地方にしかおらず医者以外に話す人がいないこと、最近病状が悪化して具合が悪いこと、それどころか会話自体辻褄が合わなくなり佐野を困らせるようになった。佐野は不安になった。 「また、入院するかもしれないの。そしたら家賃振り込みにもいけないからどうしたらいい?」 「もし入院が決まったらその病院の連絡先を教えて下さい。病院の人と話してみますから。」 一週間後、本当に入院することになった。病院関係者に問い合わせたところ、用事があれば外出しても構わないということだった。期日通り支払うよう損沼にも確認を取った。なんとかすると言っていた。
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