壱之巻・始

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『おー来た!!遅いぞ、つっちー!!』 大きな酒瓶を持った井小夜が心より嬉しそうな顔を椎弥に向ける。 『おっそいよもー。椎弥が遅刻なんて珍しいじゃないか』 あやすの大変だったんだよ、と付け加えた紅蓮が参つの猪口を取り出した。 『…申し訳ありません…色々と準備を』 ー貴方達の命を貰う為の 之國へ帰る為の 荷物を纏め 馬に積んでいたら遅れてしまったー そう心の隅で思いつつ、椎弥は弐人の下へ歩み寄った。 『………明日からさ……此処には中中来る事、出来なくなるかもじゃん? だから、今日は絶対に来よう そう思ってたんだ』 寂しげな顔を湖に向ける井小夜…その憂いな瞳は水を纏う様に潤み、色香を纏う……しかし 『城のやつらぜーっってえ探してるだろうな…へっへっへ……残念だったな此処は俺たちだけの場所だぜ! 突き止めさせてたまっかよ』 その顔は何処ぞへ…… へっへっへと弄らし気に笑うと紅蓮が呆れ顔を向けた。 『……椎弥も怒られるときは同じだからね』 と紅蓮は椎弥の裾を掴む。 『まーいっか!!呑もう!!楽しもう!!!』 夜が近づいているというのに 井小夜は太陽の様な笑みを向けた。 『…かしこまりました』 椎弥は井小夜から静かに酒瓶を奪うと、酌をと彼へ頭を垂れた。 ーそうだ、この弐人はどうせ酒に呑まれ眠る迄呑むであろう。 その刻に殺ろう。 ……せめて ……苦しまぬ様に 最期の宴会 相応しき程に見事な天満月が空を目指し始めた。
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