壱之巻・始

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『お主と別れた後、我輩も継承之儀の話を聞いた……明日だそうな』 はい、と小さく答える辰巳はゆっくりと顔を向ける。 蝋燭に揺らめく顔が不気味に揺らめいた。 『私めが蛙鳴将軍及び妻を暗殺します故。椎弥様は若と“狐”を 。 そこからはこの之國外れで待機している郎女様が壱気に此の之國を攻め落とします…』 辰巳の言葉に、椎弥は怪訝な顔を向けた。 『兄様は…変わらず家臣をお前しか置かぬのか』 『…はい…頑なに拒みまして。“信頼しているのは、辰巳と椎弥だけ。だから後はいらない”…と。説得の末、籠も兼ね漸く弐人程増えたのですが……』 其処まで聞くと、ふうとため息が漏れ出た。 『…あれらは個個でふらふらとしておる事が多いから討ち易いのぉ。 しくじり兄様を悲しませる事もなかろう。 我輩も之國へ帰ったら主の仕事…手伝うからの。すまぬな、お主に全てを任せて』 『いえ…椎弥様の労に比べれば私など………… 此の平和に呆けた児雷也之國は簡単に落とせそうですね』 辰巳の言葉にそうだな、と言葉を返し兄を思い浮かべた。 『…兄様…か…』 『椎弥様も待ち遠しいでしょう、郎女様にお会いできる事が』 表情を変えない辰巳は淡々と述べる。 『そうだな…では、明日は朝より継承の儀だ…我輩たちにとっても大切な日じゃ。 辰巳も早う休め』 『はっ』 椎弥の言葉に短く返すと屋根裏へ消える様立ち去った辰巳。 行灯の火を消すと辺りは本藍の闇に包まれ、格子から小望月の光が椎弥を照らした。 辰巳が去ったというのに、その場に座り拳を握る椎弥。 ぎゅ、と肌が擦れる音が小さく響いた
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