壱之巻・始

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天守閣の頂上で、神祝詞の声が響く。 『ねぇ』 『ねぇゝ』 『ねぇー椎弥ーってばー』 その神祝詞が響くは 襖で遮られた部屋。 蛙鳴壱族のみが入ることを赦される神聖な“水神之間(みながみのま)”だ。 そこから少うしばかり廊下で椎弥の隣に肩を並べる者が不満げな声を向けた。 『……静かにせぬか。儀式の最中だと言うにお主は』 『大丈夫大丈夫聞こえないって』 呑気な声を漏らすのは 顔を向ければ椎弥にとって見慣れた存在。 昨日逃げ回る井小夜を引っ捕え城へ引き摺り戻した男だ。 此の之國でこそ見馴れた者が多く驚く事は希だが……明らかに人とは違う異形の者が長いため息を漏らした。 『…先からどうした、紅蓮』 頭からは狐の様な獣の耳が長く伸び、髪と同じ金色の色に輝いている。 粋なのか変異なのか…前髪の壱部だけは蒼く染められているが…彼は気にならない様だ。 その獣らしさは耳だけでない。 玖本生えた艶やかな光を返す……はたまた金色色の尾は異形の中でも特に眼を引き城でも郡を抜く身長の高さを持つ椎弥よりも高い身長をより大きく見せていた。 首に巻いた嘸かし高いであろう毛皮を撫で、他のものとは少し形違いの特徴的な着物を着た獣人は嘸つまらなそうに椎弥を見つめると 『僕達さー。こぉんなに児雷也之國に貢献してるのに扱い悪くなぁい? 遠い所から奉公しているとは言え大老に老中ダヨ? あんなに若の面倒で苦労してるのに仲間内から外されて此処で待てとかさぁ やっぱ他之國他人はどうあがいても他所なんだねえ…悲しきかな悲しきかな』 紅蓮と呼ばれた男はんんー、と背筋を伸ばした。 image=502777203.jpg
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