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(そうか……大変だったな。だが、お前なら出来ると信じてたぞ)
「よく言うよ。で、これからどうなる?」
(今のところ、お前の出番はない。ベンの妹はまだ中学生だし、妹にお前を付けるわけにもいかない。しばらく休め)
電話を切った後、トマスは椅子に腰掛けた。彼は今、事前に父が予約してくれていた高級な宿にいる。不意の予定変更にも対応してくれるのだ。今回のような事態には、非常に助かる。
今回の件は、初めから仕組まれたものだった。大企業を一代で築き上げた傑物であるカール・ジャクソン……その三男のベンは、どうしようもないバカ息子であった。トマスの役目は、ベンをトラブルから守ることにあったのだ。幼少期の頃からずっと、トマスはベンが余計なトラブルに巻き込まれないよう、影から気を配っていた。父親に叩き込まれた暴力と謀略の技術を用いて、ベンの身を守っていたのだ。
しかし、ベンは悪くなる一方だった。母親に甘やかされて育ったベンは、度々トラブルを起こした。その度に、カールがあらゆるコネを使ってもみ消していたのだが……。
やがて、カールは心を決めた。息子のベンの存在を、なかったことにしようと。
だが、ベンの母親でありカールの妻であるジャネットはベンを溺愛している。ベンを消すとしたら……よほど上手くやらない限り、かえって面倒なことになる。
そんな時、ベンとトマスがエメラルド・シティを旅行する、という報告を受けたカールは、トマスの父親に命令を降した。
ベンをエメラルド・シティで殺せ、と。
エメラルド・シティという場所では、人ひとりの命など安いものだ。しかも、エメラルド・シティで死んだとあっては公にできない。無法地帯の安宿で、クリスタルの射ちすぎで死んだとなっては……絶対に公には出来ないのだ。
トマスには、ベンの死を見届けるという任務が与えられた。
全ては終わった。面倒な仕事だったが、トマスの人生を悩ませていたベンという障害物は消えた。明日からはやっと、自由に生きられる……。
だが、それはほんの一時だろう。自分は父と同じ、トラブル処理が仕事なのだ。父の跡を継ぐ以上、平和な日々は訪れることはない。いずれまた、ベンのような厄介者のお守りをさせられることになる……。
まあいい。それまで、束の間の自由を楽しもう。
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