狩りの獲物

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七月二十一日  トマスは怯えていた。  廃墟と化した建物の中、遠くから聞こえてくる若い男の罵声……トマスは息を殺し、体の震えを押さえながら身を隠していた。彼は恐怖のあまり、気が狂いそうになりながらも必死で考える。  何故、こんなことになってしまったんだ?  これは、オレに対する天罰なのか?   オレは、何かヘマをしちまったのか?  トマスは暗闇の中、一人で膝を抱え心の中で叫び続ける。そもそも、ベンの奴がいけないのだ。あいつは自分にとって、本物の疫病神だった。  あいつさえ、もう少しまともであったなら。  ・・・ 七月五日 「おいトマス……この夏休みだけどさ、お前は何か予定あんのか?」  高校の授業が終わり、帰り支度を始めていたトマスに、同級生のベンが声をかけてきた。 「えっ? 予定なんか、あるわけないよ。しょうがないから、バイトでもするさ。オレも金欠だし」  トマスは笑顔で言葉を返す。だが内心では、目の前にいる無神経なバカ者を殴り倒したい衝動を必死で押さえていた。彼はついこの前、一年近く付き合っていたベッキーと別れたばかりである。  しかも、別れる原因となったのが、目の前にいる小太りのいけ好かないボンボンが、ベッキーに下らんちょっかいを出してきたせいなのだ。  ベンの父親は社長である……トマスの父親が勤めている会社の。そのため、トマスは幼馴染みのベンに対し、複雑な思いを抱きながらも付き合い、共に成長してきたのだ。  ベンは決して悪い男ではない。  いや、正確に言うと……悪気は無いが、面倒なタイプだ。お坊ちゃん育ち特有の人の良い部分は持っている。だが、お坊ちゃん育ち特有の、空気の読めない部分も持ち合わせている。  トマスとベッキーが別れる原因を作ったのも、ベンの空気の読めなさが発揮されたからだった。  トマスとベッキーのデート中に現れたベン。彼はベッキーの前で、トマスの幼い時にしでかした数々のみっともない体験を面白おかしく話してみせた。数時間に渡り、延々としつこく。  さらには、矛先をベッキーに向けてきた。ベンの下らない質問攻めが始まる。二人の知り合ったきっかけや、トマスのどこが気に入ったのか、などといった質問から始まり……しまいには、初エッチはいつ? 好きな体位は何? などという質問までぶつけてきた。
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