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「なあトマス、今度の連休だけどさ、一緒にエメラルド・シティに行かねえか? 行って、何もかも忘れて遊ぼうぜ。もちろん行くよな?」
「ええっ!? 本当かよ!」
またしても叫び声を上げるトマス。エメラルド・シティに入るには許可が必要と聞いている。国によって手続きのやり方は微妙に異なるそうだが……共通しているのは、それなりの理由が必要だという点である。肉親や親戚が中にいる、取材のため、街の調査、公の施設の修復工事などなど……それなりの理由がなければ、入れない場所のはずなのである。
「ちょっと待てよ、何でお前が――」
「おいおいトマス、お前は何も知らないんだな。あの街に入るのは簡単さ。親父の名前さえ出せば、簡単に入れる。あそこは今や、金持ちのためのアトラクションみたいなもんだよ。そこでだ……」
ベンは言葉を止めた。そして、いかにも大物ぶった態度で顔をこちらに近づける。トマスは胸がむかついてきた。その場で顔面に頭突きを叩き込みたい衝動を感じた。だが気持ちとは裏腹に、顔には愛想笑いが浮かんでいる。
ベンは、そんなトマスの表情を見て、満足げな笑みを浮かべた。
「親友であるお前を、是非とも招待したいってわけだよ。なあ、一緒に行こうぜ。お前、ベッキーと別れてから元気ないじゃん。だから、パーッと遊んですっきりしようや」
「い、いや……」
「なあ、行くんだろ? エメラルド・シティなら、女はいくらでも買えるぜ。しかも、人殴ろうがクリスタルやろうが捕まらねえし。あそこは何やっても、逮捕されないんだぞ。なあ、行こうぜ?」
興味は無い、と言えば嘘になる。トマスはこれまで女を買ったことはない。クリスタルのような麻薬をやったこともない。犯罪とは無縁の生活を過ごしてきたのだ。それに、エメラルド・シティという退廃と混沌の支配する街には、何か惹き付けられるものを感じる。自分の十七年間の人生……そこには自由がなかった。もっとはっきり言うなら、自分の自由意思が介在していなかったのだ。誰かに決められたルートを、そのまま歩いていた気がする。
その誰かの中には、目の前にいるベンも入っているのだが。今も、ベンの言うことには従うしかない。
「わかった。行くよ」
「そうか、行くか。よし、オレに任せておけ。ベッキーのことなんか、帰って来たら忘れちまうせ……あまりに楽しすぎてさ」
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