174人が本棚に入れています
本棚に追加
『恭ちゃん。別れよ?』
カナコがあの日別れを告げたのも、このどっちつかずな俺の心を見透かしていたのかもしれない……。
『私、向こうに好きな人が出来たから』
いや……、まさか。カナコは確かにそう言った。良いように考え込もうとするのは、別れをすんなりと受け入れた自分への後悔か、それとも負い目に似た感情か。
軽く口をゆすぎ水を吐き出す。ふと、目の端に捉えたもう一本の歯ブラシを掴んで数秒の間。
「…………っ」
無意識に口を割って出る溜め息。それを合図に、俺は握り締めていた拳をゆっくりと開放させた。
屑籠目掛けて一直線。落ちて行く。
別れはいつでも呆気ない。
最初のコメントを投稿しよう!