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最終章 #2
桜がほんのりと色付き始めた四月、某日。
「御記帳お願いします。」
「どうぞ、お進み下さい。御宿泊予定の方は、お手数ですがフロントまでお願いします。」
結城リゾート目黒、リニューアルオープンのその日は選び抜かれた招待客だけという、いわば試運転のようなもの。
シャンデリアがきらびやかな大広間で、間もなく行われる式典。その受付を担当するのは私と前田さん。
テレビや雑誌でお見えしてる各界の著名人、芸能、スポーツ、財界のドン。
目も眩みそうな輝かしいスターの人波に、私達はただただ圧倒されるばかり。
「っ………………。」
ついに。ついに、この日が来たのだ。
「はぁ……、なんだか喉が渇いたわね。」
「そうねぇ……。」
列が途切れた瞬間、タイトな白のスーツでバッチリと決めた前田さんが喉元を気にしながら囁いた。大して気にも止めずに、相槌を返したのがいけなかった。
彼女はキッと目をつり上げて、声を荒くした。
「先輩が喉が渇いたって言ってるんだからダッシュしなさいよ!!何、同意してんのよ!?」
「嫌よ、面倒だし……。それに同意したのは気遣い。私は何にも欲しくない……。」
欲という欲が消え失せた、このなんヶ月間。周りの景色は絵画と化し、音は全てがBGMのよう。
この私が失恋ごときでこんな……。
「ぐっ…………。」
ああ……、本当。嫌だな……。
「ままま、待ってよ!ここで泣かないでよね!?わかった、私が何か頼んでくるから……!!全く、もうっ……!!」
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