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「どうした、何か問題か?」
そこに、追い討ちを掛けるよう奴が現れた。時間が止まったこの世界で、唯一鮮明に聴こえるその声。不思議と痛みは感じなかった。
「あっ……、恭哉さん!お疲れ様です!」
「…………ご苦労さん。」
慌てて振り返った志摩くんが、姿勢をピンっと伸ばして頭を下げた。眼鏡のレンズ越し、志摩くんの向こう側。睨むような眼差しが、私を捉えている。
あの日のボロボロな彼とはまるで別人。
髪型や、スーツ一つで人間がこうも変わるか……。
なんて、現状ボロボロな私が言う事じゃないけど。
「……お疲れ様です。」
「ああ。」
ジワリ、目の奥に熱いものが込み上げた。
こうして面と向かい合うのは、あの最悪なクリスマスの夜以来。
喜びにも似た複雑な感情が、私の体を駆け巡る。恭哉はとっくに“過去”として受け入れているのに……。
もう、いっその事消えてしまいたい。
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