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「本社の研究センターへの移動だなんて素晴らしいことだ。
僕達研究者なら誰だってあの場所を目指す。
選ばれた者しか行くことのできないあの場所に、君は優秀なプロジェクトメンバーの一員として迎えられるんだ。
君の実力が認められた証拠だよ」
「……」
黙り込む私に、センター長は困ったような笑みを浮かべた。
「何を迷う必要がある?
君はもともと創薬科学専攻だ。
入社してからは新人ながらも高倍率の米州研究センターに配属され、そこで一年間あらゆる知識と技術を習得してきた。
日本に帰国し、この小さな研究センターで毎日妥協せず、研究職として大いなる成果を残してくれたことにとても感謝している。
だからこそ、こんな小さな畑に君を縛りつけておくわけにはいかない。
それに君は新薬開発を希望しているんだろう?
なおさら行くべきだ」
センター長にそこまで言われてしまったら…何も言い返せなくなる。
センター長は研究者としてスペシャリストだ。
彼が築き上げたこれまでの実績は、誰もが羨むほど素晴らしいものばかりだ。
みんな彼のような研究者になりたくて、がむしゃらにその背中を追いかけてきた。
そんな彼を始めとする本社の役職の方が私を評価してくれるのは心から嬉しいし、とてもありがたいことだ。
でも、私は…。
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