12.再会

8/31
前へ
/31ページ
次へ
私は本社へ行くことを決めた。 センター長の言う通りだ。 私はずっと創薬科学研究者として、一から創薬に携わりたいと願っていた。 センター長の後押しがなかったら、私は辞令を受理していなかったかもしれない。 ただ、あれだけ称賛されても、いまだに自信は持てなかった。 空っぽな心を埋めたくて、いつだってがむしゃらに働いてきたはずなのに。 なにより、小さな研究センターだからこそ、スタッフみんな仲良くて、優しくて、こんなにもアットホームな職場にはもう出会えないと思うほど、私はこの研究センターが大好きで特別だったから。 本社へ行くことを決めたのなら、私はこの地を離れ、再び上京することになる。 あの時の、若さだけで何でも乗り切れるようなエネルギーはなかった。 むしろ、この歳になって新しい世界へ飛び込むことは、自ら地獄へ足を踏み入れるような怖さがあった。 だから私は怖気づいて、中々踏み出すことができなかったのかもしれない。 時が経つのは早い。 大学を卒業し、大学院で名高い資格を取得した。 東京を離れたのは入社して、米州研究センターへ配属されてから…。 あれから、もうすぐ八年の月日が経とうとしていた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

630人が本棚に入れています
本棚に追加