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私は本社へ行くことを決めた。
センター長の言う通りだ。
私はずっと創薬科学研究者として、一から創薬に携わりたいと願っていた。
センター長の後押しがなかったら、私は辞令を受理していなかったかもしれない。
ただ、あれだけ称賛されても、いまだに自信は持てなかった。
空っぽな心を埋めたくて、いつだってがむしゃらに働いてきたはずなのに。
なにより、小さな研究センターだからこそ、スタッフみんな仲良くて、優しくて、こんなにもアットホームな職場にはもう出会えないと思うほど、私はこの研究センターが大好きで特別だったから。
本社へ行くことを決めたのなら、私はこの地を離れ、再び上京することになる。
あの時の、若さだけで何でも乗り切れるようなエネルギーはなかった。
むしろ、この歳になって新しい世界へ飛び込むことは、自ら地獄へ足を踏み入れるような怖さがあった。
だから私は怖気づいて、中々踏み出すことができなかったのかもしれない。
時が経つのは早い。
大学を卒業し、大学院で名高い資格を取得した。
東京を離れたのは入社して、米州研究センターへ配属されてから…。
あれから、もうすぐ八年の月日が経とうとしていた。
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