一杯目:モスコ・ミュール

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えー、それでですね。石川君ですが。 寮に入って半年ほどは特に何も無く、普通に過ごしていたそうです。 けれど、ある日の夜。 時間は夜中一時を過ぎた頃。 普段からゲームで夜更かしして昼間看護学校の授業中に寝ているような奴でしたから、この日もやはりゲームで遊んで起きていたようです。 急に、ドン!と部屋の扉を強く叩く音がしました。 同じ寮の誰かが遊びにでも来たのかと思い、鍵もかけてなかったので、勝手に入ってくるだろうとそのまま石川君はゲームを続けていました。 しかし、いつまで経っても誰も入ってきません。 不審に思い始めた頃、またもや ドン!と叩く音が。 今度は、ドン!ドンドン!ドンドンドン!!と何回も繰り返し叩き続けます。 段々と叩くリズムも早くなり、しまいにはドドドドドド・・・!という風に。 これは友達か、先輩達のイタズラに違いないと思った石川君は、扉の向こうにいる相手にぶちかます勢いで扉を開けて、仕返しをしようと考えました。 けれど。 勢いよく開けたそこに・・・誰もいませんでした。 開ける直前まで扉が叩かれていましたから、とっさに隠れたとしても近くに身を隠す場所もなく、 走り去る音ひとつすら聞こえません。薄気味悪く思いながら石川君は部屋に戻りました。 気持ちを切り替えて、ゲームの続きをしようとした時。 またも音がしました。 今度は部屋の扉の反対側、窓を叩く音が、バン!と。 バン!バンバン!バンバンバン!!バババババ・・・・・・! 激しく窓ガラスを叩く音は、何人もの人が一斉に叩いているかのように、激しさを増していきます。 ここで、事の異常さに石川君も気が付きます。 この部屋は地上四階、元々古い作りの病棟だったためにベランダなどという足場も無い窓を、何人もの人間が叩き続けられるわけがありませんからね・・・・・・ 窓にはカーテンがかけられており、その向こうで窓が激しくバンバンと音をたてています。 石川君は、思い切ってカーテンに手を伸ばしました・・・・・・
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