インクルージョン

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私は白猫を膝にのせて頭と顎の下を撫でた。 猫はグルグルと喉を鳴らす。 機嫌がいいようだ。 そして私は呟いた。 「お前に新しい名前をつけてやらないとね。そう…。キョウちゃん。彼は恭弥だったから、キョウちゃん。」 猫は頭だけくるっと私の方を振り返る。 そして、丸まった耳と耳の間に落ちる水滴を嫌がって私の膝から降りてしまった。 ああ、泣いてるのか。 他人事のように私の意思とは無関係に瞳から落ちる水滴を拭った。 私が見い出した養分。 その全部の男たちの面倒を最後まで見たわけじゃない。 売れなくなって田舎に帰る者、裏方に回る者、野垂れ死ぬ者。 男が、いや、彼が何か特別だったとは思わない。 ただ、朦朧とした頭で書いただろう、遺書に連なる言葉が頭から離れないだけだ。 「美緒がいないと俺は生きていけない。愛してる。美緒に冷たくされるのが辛い。」 どうせ、病んだ人間の戯言だ。 矛盾だらけの遺書。 冷たくなんかしていない。 ただ、ステージで歌うことが出来ない彼を見るのが辛かった。 私がいないと生きていけない? 私はまだこうして生きているのに。 自分勝手に死ぬなんて養分の分際で生意気だ。 私は絶対に死なない。 自殺なんてしない。 これからも光る男をいち早く見つけて業界に売り込み続ける。 さすがはお嬢さん、目のつけ所が違うと業界の大物を唸らせてやる。 必ず恭弥があの世で悔しがるような逸材を見つける。 恭弥を越えるスターを見つけてやる。 さよなら、私の愛しい男。
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