夜の卵 其の十 【ママじゃない】

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目を開けると、そこには、ママの顔があった。 ママは私を黙って見下ろしていた。 驚いた私は、すぐに布団を跳ね上げると、 「おはようございます。」 とあいさつをした。 「毎日、シーツを取り換えるの、わかってるでしょう?自分の子供が不潔なのは私、嫌なんだから、さっさと起きてちょうだい。」 ママは冷たく言うので、私はすぐにパジャマを脱いで、着替えをしようとクローゼットを開けて、無意識にお気に入りのワンピースに手を伸ばしていた。 それを目ざとく見つけたママがそれを取り上げた。 「そんなダサい服着て学校に行くつもり?この間ママが買ってあげたお洋服にしてちょうだい。」 そう言うとクローゼットに掛けてあった、堅苦しい服を手渡してきた。 私は、ママの手作りのあのワンピースがお気に入りだったし、学校のみんなもかわいいと言って羨ましがり、ママの手作りだと言うと、ますますいいなあ、と羨ましがられた。私は、それがすごくうれしかったし、自慢のママだった。 この人はママじゃない。 姿形はママであっても、私にはわかる。 遡ること、一か月前。 ママは、ママの小学校時代からの友人のお見舞いに、病院に出かけた。 その友人は、突然、くも膜下出血という病気で倒れたのだ。 私は、そのおばさんを知っている。 一度、うちに遊びに来たことがあって、とても感じの悪いおばさんだったから覚えていたのだ。 この家を建てた時に、新築祝いで来ると言うので、ママは朝からお掃除したり、お茶の用意をしたりして待っていたけど、約束の時間には来なくて、夕方の夕飯時にようやく訪ねてきたのだ。 「あら、タカヒロさんはいないのね?久しぶりに会いたかったのに。」 開口一番、そう言ったのを覚えている。タカヒロはうちのパパの名前だ。 ママは申し訳なさそうに、パパは残業で帰れないことを伝えると、フーンと言い、ママに新築祝いの品を渡してきた。 「そのワイン、高かったのよ。タカヒロさんと一緒に飲みたかったわあ。」 そう言うと、ママは困ったような愛想笑いを浮かべた。 ママは何も言わないけど、ママとこのおばさんとパパの間に何があったのか、子供の私でも容易に察することができた。
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