第1話 眠れぬ夜の先で

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もう深夜の1時になる。 思いがけず深酒をしてしまったことを、滝良介は激しく後悔した。 商店街はシャッター通りと化し、駅周辺は、しらけた静けさに満ちていた。 まだ10月に入ったばかりだというのに、地軸が狂ったかと思うほど冷え込んで来たことが更に気持ちを萎えさせる。 そもそもここは生活圏でもなんでもない、滝にはなじみのない駅だ。 明日からの初出勤にそなえ、早く帰宅するつもりだったのだが、電車内で大学時代の友人に7年ぶりにばったり出くわしたのが運の尽きだった。 「へえ、滝。明日から私立高校の常勤講師なのか。そりゃあいい時に会った。積もる話もあるだろうし、久々に飲もうや。次の駅で降りるぞ。いい店があるんだ」 気のいい友人はそう言って自分のお気に入りの地酒を振る舞ってくれたが、同時に滝に対する疑問を口にするのも忘れなかった。 「でもさあ、あんな大手でSEやってて、なんで転職なんかするんだよ。正直もったいない気がするんだけどな。なんかあった?」 その質問は、滝にとって答え辛いものだった。 本当の理由を言ったところで理解してもらえるとは思えなかったし、いろいろ遡って説明する気力もなかった。
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