第1話 眠れぬ夜の先で

6/9
484人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「うん……まあ、仕事がハード過ぎたし、人間関係もいろいろあってね」 そう深刻な顔で答えてやると友人は納得し、「まあ、大きいところはそれなりに大変だわなぁ」と、更に酒をすすめてくれた。 システムエンジニアの仕事はもちろん心身ともにキツイ職種ではあったが、自分に合っていないと感じたことはなかった。 顧客の無理難題に悩まされ、仕事内容を理解していない営業とぶつかり、同僚の尻拭いのために終電で帰る日々が続いても、やった分の成果は形として残される。 体力的にギリギリでも、人間関係でやめようと思ったことはなかった。 転機が有ったとしたら、それはもう4年も前の事だし、自分自身の問題だった。 その時の悲しみと自己嫌悪から逃げるために、ひたすら仕事に没頭し、あえて忙殺されて過ごした。 なんとか乗り越えたと思っていたが、それこそが大きな間違いだったらしい。 ここ数カ月で急激に心身ともにガタが来て、心が赤ランプを点滅させてきたのだ。 自分の提案したシステムが稼働した時の達成感は大きな喜びだったはずなのに、ある時期からそれすら感じられなくなった。 全ての感情が鈍麻し、じわじわと死んでいく自分の感情に気づいたのだ。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!