第1話 眠れぬ夜の先で

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もう潮時なのだろう。 今の生活を一新しなければ、本当の意味で自分の時間は動き出さない。 他人には上手く説明できないが、今が転機なんだと強く感じた。 そんな思いに捕らわれたちょうどそのころ目に飛び込んで来たのが、私立高校の常勤講師募集の広告だった。 急病の教師の代理のための急募であり、勤務開始は10月1日。 求人広告を目にしたのは、その10日前だった。 大学時代はとりあえず何か資格をと思い、情報社会学部でありながら教職課程も取り、教員免許を取得していた。 募集科目も選択科目の歴史であり、対応可能な範疇だ。 衝動に近い形で面接を受け、結果を待たずに1週間前、会社に退職届を出したのだ。 受からなかったら今頃、この寒空の下、途方に暮れているところだった。 まだ酒でふわふわしている頭でそんな事を思い出しながら、滝は深夜の高架下を歩いた。 1週間の準備期間を経て明日から、いや日付が変わったので正確には今朝から、私立清倫高等学校常任講師としての生活が始まる。 もちろん、不安が無いわけではない。 自分が人の前に……それも15、6歳の子供たちの前に立っていいものだろうかという懸念は日に日に大きくなり、まさに今夜はピークだった。 もうすぐ30歳になろうといういい大人が一人、自分のブレ具合に苦しんでいるのが滑稽で情けなかった。
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