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―――とにかくなるべく早く帰って酒を抜かなければ。
車通りの多いところでタクシーでも止めよう。
そんなことを思いながら高架下の駐輪場のフェンス沿いを歩いていた時だった。
鋭い、射るような視線を感じ、滝は伏せていた顔を上げた。
フェンスの途切れた先にポツンと設置されたコインロッカーがあり、その正面に体を向けた少年が首だけこちらにひねり、じっと滝を見つめているのだ。
モッズコートを着ていてもほっそりした体つきは隠せず、身長はそこそこあるが、まだ中学生くらいだと感じた。
街灯のあかりは薄暗かったが、自分の見知っている子供では、もちろんない。
あたりを見回したが他に誰も居ず、やはり少年が見つめているのは滝なのだ。
「ねえ、早く」
突然少年はコインロッカーの中程の扉を手で押さえ、澄んだ、けれど切羽詰まった声で訴えてきた。
「ここ、すぐに開けてやってほしいんだ。鍵が掛かってて……」
少しニュアンスがおかしく、まるで誰かのために、と言っている風に聞こえる。
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