1章 かけひき

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ここのところ、宮本は恐怖とともに朝を迎えていた。 ライバル社の記事で、自分の知らない木嶋の情報がいつ出てくるかわからない状況だったからだ。 インターネット上だと、朝5時ごろから各社のニュースが順次アップされはじめる。 新情報が出ないことを祈りながら眠りにつき、早朝に起きて該当するニュースが出ていないかを確認することが習慣となった。 既に一度、大物コーチが退団するというニュースをライバル社に抜かれて、起床10分と立っていないのに青ざめたことがあった。 もうあんな思いはたくさんだった。 村田の説教に頭を上下させながら、宮本は木嶋から着信が来ることを切に願った。 「宮本、できる記者に共通していることって何かわかるか?」 「いえ・・・原稿がうまいこととか、面白い話を聞いてこられるとかですか?」 「そうじゃない。どれだけ【網】を仕掛けられるかだ。できる記者は、情報を拾い上げられる網を多く仕掛けている。情報網だよ。しっかり構築していれば、いざというときに必ず役に立つ。そういうネットワークを今から作るように心がけろ」 いつもは落ち込んでしまって頭に入らない村田の言葉が、妙に心に響いた。 その時、持っていた電話が振動した。 木嶋からの着信だった。
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