目を開けると、

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 目を開けると、そこには僕がいた。  「……っ」  白い長そでのYシャツにジーンズ姿の僕は、僕をじっと見ていた。軽く後ずさりをしたところで気がついた。  鏡だ。  目の前に鏡があった。白い縁の姿見が僕に向かい合って立っていた。困惑して顔に手をやると、鏡の中の僕もそれを真似した。  深い眠りから覚めた感覚が頭を締め付け、目がちかちかと刺激を感じている。それもそのはず、周りが真っ白であるからだ。壁を跳ね回った光が僕の目に飛び込んできているのだろう。  ――――ここはどこだ。  目を開けてから一分半。僕はようやくその当たり前の疑問を頭に思い浮かべることに成功した。  鏡が置かれた白い部屋。こんな所に憶えはない。何故、鏡の前に立っていたのかも当然ながらわからない。  …………立っていた? 僕は先ほど目を開けた。つまり目を覚ました。僕は立ったまま眠っていたとでもいうのか。  「……どういうことだ」  意図せず声が漏れた。その声は明らかに戸惑っていた。  何故、僕はこんなところで立ったまま目を覚ましたのか。ここにはどうやって来たのか。  まさかさらわれた? 無理やり連れてこられた?  不穏な予感が頭をよぎった。そういった映画を見たことがある。目を覚ますとそこは謎の部屋で、そこで主人公は監禁されたり、理不尽なゲームをさせられたりするのだ。  途端に動悸が速くなってきたのがわかった。落ち着いて考えなければ。  「……ここに来る前、僕は何をしていた?」  しっかりと思考回路を動かすために、僕は声に出して記憶を掘り出すことにした。頭で考えたことがまた耳に入ることで脳に言葉が染み入る。  「…………憶えてない……」  目を閉じて脳の奥、記憶領域を必死に漁ったが。しかし手がかりは無かった。それどころか、  「あれ……憶えて、ない……? 憶えてないぞ……」  記憶が無かった。ここに来る前のこと、だけではなく。自分についての情報を、一切思い出せない。頭の奥は真っ白だった。  すぐに両手で頭を触った。しかし怪我や痛みどころは無い。とすると。  「薬……?」  すぐに両腕の袖を捲り上げたが、注射痕は無い。何か飲まされたのだろうか。右手の人差し指と中指を口の中に突っ込もうとしたところで、それを少女の声が引き留めた。  「そんなことしても意味ないよ」
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