少女

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 背後から聞こえたその声に、僕はびくりと動きを止めた。この部屋には他に誰もいなかったはずだ。鏡以外に物すら無い。  しかし確かに声は後ろから聞こえていた。  振返らないわけにはいかない。このまま固まっているわけには、いかなかった。  僕はゆっくりと右手を下ろし。ゆっ、っくりと首を、肩を、身体を振り向かせた。  そこには少女がいた。  「久しぶり」  そう言う彼女は軽く手を振っている。  高校生、だろうか。どこの物かわからないが、セーラー服を着ている。小柄だが多分、高校生。  彼女は振っていた手を下ろし、セミロングの黒髪を揺らしながら首を傾げた。  「どうしたの、黙って」  それに答えるのは簡単であった。わけが分からないからだ。  「君は誰だ?」  自分に手を振り、首を傾げた少女もまた記憶に無かった。  僕の問いかけに、彼女は眉を寄せた。その表情は複雑で、怪訝そうでもあったし不満そうでもあった。そして、悲しそうでもあった。  その顔のまま、彼女は薄い色の唇を開いた。  「そんなの、自分でわかってるはずだよ。思い出してみて?」  そう言って、少女は一歩踏み出した。僕に向かって一歩、また一歩。近づいてきた。  「ほら、目を閉じて」  彼女は僕の間近まで寄ると、低い身長から僕の目を覗き込んだ。言われるがまま、目を閉じた。  真っ白から真っ暗へ。意識がさまよう。目を閉じたのはいいが、何も思い出せる気がしない。  瞼の裏の宇宙をただ眺めていると、突然左手に冷たい感触が当たった。  「えっ」
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