見つけてほしい

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   陸人との出会いは1ヶ月前。  上京して間もない頃、私はコーヒーショップの前でお財布を出そうとした時に、パスケースを落としてしまったのに気付かず、「落としたよ」と声を掛けてくれたのが陸人だった。  私は慣れない土地で知らない男の子に声を掛けられて焦ってお礼も言えずにいると、「お礼にコーヒー奢ってよ」なんて、人懐っこい笑顔で言われて有無を言わさずにコーヒーをご馳走させられた。  だけど、その笑顔が安心できて惹かれたのも確かだった。  会話をしていく中で、陸人も私も地方出身で上京したばかりで今年19歳になる、共に年の離れた妹がいて、アメリカのテレビドラマが好き、そんな共通点が沢山あって、いつの間にか打ち解けて気が付けば4時間近くも喋っていた。 「俺ん家、この近くのマンションなんだ。寄って行かない?」  コーヒーショップを出ると、ふいに陸人にそう誘われた。  だけど、その日会ったばかりの人の部屋に行くなんて出来なくて、私は「また今度ね」と笑って断った。  陸人は「取って食いやしねえって」と何度か誘ったけど、私の態度が頑なだったから、「警戒しやがって」とか何とか言いながらも、笑顔で携帯番号をメモして私に渡した。
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