見つけてほしい

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「好きになったかも」  昨日の夜、コーヒーショップを出る時に私は陸人のシャツの裾を掴んで、下を向きながらそう言った。  陸人は驚いたように「えっ」と言うと、振り向いたまま何も言わずに動かなかった。  あまりにも静止したままだったから、私は恐る恐る顔を上げると、真っ赤な顔をして目を見開いてこちらを見ていた陸人の顔が目に入った。  それを見た瞬間に、困らせたのかな・・・と思った。  週の半分はこうやって会って長話しているのに、陸人にとって私は付き合っていなくて異性として好きでもない、ただの友達ってことなのだろうか・・・? 「じゃあ、帰るね」  私は何事も無かったかのように、笑顔を向けて手を振った。  陸人が返事が出来ないほど困るなら、ここは白紙に戻すしかない。  店のドアを開けて外に出ると、すぐに陸人に手首を掴まれた。 「待てよ、美鈴。ちょっと驚いただけで・・・」  細っこく見えたけど、意外と力強くて少し驚いた。やっぱり男の子なんだな。  私の前に立って少し伸びた前髪をかきあげた陸人は、座っている時には気付かなかったけど意外と長身だった。 「俺も・・・多分、好きになっていると思う・・・美鈴のこと」  照れているのか、私とは目を合わせないで陸人が言った。  次にいつものように「家に来る?」って言葉が来るかと思ったけど、何故か今日はその言葉を言わなかった。  別に期待をしたわけじゃない・・・と少し自分の中で恥ずかしくなった。
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