0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は様々な事を歪んだグラスに願った。世界平和を願うと彼の部屋に他人の郵便物が間違えて届けられた。不老不死を願うと茶柱が立った。宝くじが当たるように願うと道端で太った女性にぶつかった。彼はその都度メモに書き残した。いつか法則を解き明かして夢のような生活を送るためだった。
一年が過ぎた。相変わらず彼は毎晩、歪んだグラスに願い事をしている。いくつか得になる願い事を発見していた。バナナの豊作を願うと何故か百円玉を拾えた。スリッパが欲しいと願うと朝目覚めた時すっきりしている。ほうれん草で感動したいと願うと風邪が治った。ただ、明らかに生活を一変させるような幸運な出来事は起こらなかった。
ある日、彼は今まで何故こんな単純なことに気付かなかったのだろうということを思い付き、行動に移した。歪んだグラスをくれた、あの骨董品店に行けば、店主から何かしらのヒントでも教えてくれるかもしれない。
あの頃よりこの地域に詳しくなっていた彼は迷うことなく骨董品店に向かった。
しかし、あの商店街には骨董品店はなかった。その場所だけ更地になっている。やはり元々存在しない奇妙な店に違いないのだと彼は思った。
念のために近くを通りかかった住民に話を聞いてみることにした。
「ここに一年前、骨董品の店がありませんでしたか。」
住民は眉をひそめて怪訝そうに答えた。
「ええ?ああ。そんな感じの店あったな。店主の気が触れて閉店したらしいよ。客に売り物をタダであげちゃうんだもん。」
最初のコメントを投稿しよう!