昨日の出来事

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昨日も雨が降っていた。仕事帰りにバスの路線を間違えて乗ってしまった。この地方に転勤してきて間もない彼はしばらく気付かなかった。車内は混み合っていた。 やたらと坂道を上ったり下ったりしているのに違和感を覚えた。彼は薄々、路線を間違えたのに気付き始めた。景色がなんとなく違った。時間もいつもなら着いていてもおかしくないほど経過していた。 次のバス停で彼は降りた。料金が少し高かった。外は雨が止んでいた。彼は馴染みのない場所で少しの淋しさと不安を感じた。 そこは廃れた商店街だった。週末だというのに客が全く見当たらない。どの店も営業しているのか、一目見て判断しかねた。 彼は何かを期待するわけではないが、せっかくなので辺りを散策することにした。実際、次のバスまで結構な時間を潰さなければいけなかった。 しかしこれといって見所がなかった。まるでこの通りは、このまま風化していくのを奨励しているかのようだった。目新しさと小綺麗さが全く感じられない。すっかり夜だというのに照明も薄暗くて不気味ですらあった。 ふと、彼は温かい光が、通りまで零れている店を見つけた。この店も他の街並みと同様にレトロな建物だった。
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