骨董品店の老紳士

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彼は光に吸い込まれるように店に入った。店内はアンティークな家具や物品に溢れた骨董品が整然と並べられていた。店のドアを開けた時に心地良いベルの音が鳴った。奥の方から、一言でいうと異国の老紳士とでもいうような穏やかに微笑む大柄の男が現れた。 「いらっしゃいませ。」 見た目がそう見えただけで外国の人ではないかもしれないその老人が声をかけた途端、彼の脳裏に戦慄が駆けめぐった。すると金縛りにあったかのようにその場から動けなくなってしまった。訳もわからず立ち尽くした彼は老人を見つめることしかできない。 老人はそのまま穏やかに微笑みながら流暢に話し続けた。 「あなたはここへ自分の意志で来たのではない。何か不思議な力に導かれて呼ばれたのです。それが何なのか私にもわからない。でも私もその不思議な力に委ねられて、一つ贈り物を差し上げたいと思います。」 老人は店の奥からグラスを一つ持ってきた。細長く歪んだグラスだった。何に使えるのかよくわからない。老人が説明した。 「この歪んだグラスに願いを託しなさい。このグラスには願いを叶える力があります。夜寝る前にグラスの前で指を組んで跪きなさい。そして心の中で一つだけ願い事をしなさい。次の日、何かが起こるでしょう。ただし、………。実際にやってみないとわからないでしょう。是非、使ってみて下さい。」 老人は丁寧にグラスを梱包した箱を彼に手渡した。その時、彼の金縛りが解けて箱を受け取ることができた。 「よくわかりませんが、タダでもらっていいんでしょうか。」と彼が尋ねると老人はゆっくりと頷いた。彼も会釈して店を出た。 また雨が強く降り出していた。彼はバス停にバスが停まっているのを見かけた。急いで駆け出してなんとか間に合った。そして、帰宅すると彼はもらった箱のことなどすっかり忘れて眠ってしまった。
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