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マサシは先程釣ってきた珍しい魚を金魚鉢に入れ、ぼんやりと眺めている。独り暮らしでなければ彼以外に誰か驚いたに違いない。
彼は今のところ誰にも知られていないことにホッとしている。まだ川へ戻そうか迷っているからだった。誰かに見られたら珍しい魚は明らかに話題になってしまい、もう川へ戻せなくなってしまうだろう。話題になれば、こんな田舎にまでテレビ局の取材が来るかもしれない。
全く悪い気がしない反面、彼の心の奥で何かが引っ掛かるような感覚が残っている。
「こんなに迷うこと自体に何かあるのではないか。普段それほど優柔不断じゃないはずなんだが。」
彼は考え倦ねたが、いずれにしても今日はもう川へ戻しには行けないということもあり、決めかねたまま眠りに就いた。
彼は夢を見ている。そこは古くからありそうな大きな図書館の中だった。奥の方に沢山の書物が乗せられた大きな机があり、とても長い髭を蓄えた古代の哲学者のような老人が椅子に座っている。マサシは珍しい魚を入れた金魚鉢を両手に持っていて、その机の上に置けるスペースを探している。老人がその金魚鉢の中を見ると驚いて、彼にどこでもいいから置くように急かした。彼がすぐ近くにある本の上に金魚鉢を置くと、老人はまじまじと中を覗き込んだ。老人は彼の目を見据えて、はっきりと言った。
「これは世界が滅ぶ前兆だ。この魚は人類どころか地球上の生物が全て滅亡する直前に現れる魚だ。」
ドーン、と大きな地鳴りが響いて彼は目を覚ました。どうでもいいことだが朝になっていた。揺れが凄かった。彼は何もすることができない。
次の瞬間、彼は物凄い勢いで外へ吹き飛ばされていた。理解だとか把握するという悠長な認識はなく、体の至る所を家屋の破片にぶつけているはずなのに痛みを感じる暇もなく、わけもわからないまま彼は死を覚悟した。
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