第2章

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博雅を座らせて、その足を伸ばしてやる。 「……やめ……っ触るなっ!」 博雅が悲鳴を上げた。 「血行を良くしたほうが早く直る。最初は辛いがすこしがまんしろ」 晴明が指貫の上から足をゆっくりとさすりはじめた。 「!……や……あぁっ」 博雅が身を捩る。 「やめろっ」 抗って胸を叩いてくる腕を捉えて、晴明が自分の背に回す。 「く……ッ、ぅんん……」 晴明の背にしがみついた博雅が、痺れた足にはしる感覚に耐える。 熱い息を耳元で吐かれて、晴明はなにかイケナイことをしている気分になった。 ……けっこうクルな、これは。 「もう……やめろっ」 「なぜ?お前の為にやってるのに」 しれっとした顔で言う晴明を博雅が睨みつけた。 「……ッあ、あ」 足をさする手に力をこめられて、博雅が大きく喘いだ。 「……博雅」 その手がゆっくりと上に登ってきて膝頭を撫で上げる。博雅の目元に朱が刷かれた。 次の瞬間。 どんがらがっしゃん!と派手な音がして。 真っ赤な顔をして広縁に勢いよく出てきたのは、博雅。背後では几帳ごと蹴飛ばされた晴明が倒れている。 博雅の足元が今ひとつ定まらないのは、まだ足の痺れが完全にはとれていないかららしい。 朝露のきらめく庭に向かって、膝を抱えた春花が簀子に座り込んでいた。足音も荒く出てきた博雅を見上げる。 目が合って少しうろたえた顔になった博雅が、そのまま無言で庭に降りた。 「また笛を聞かせてくれるか」 背後から声がして、踏み出しかけた足が止まる。 「……そのうちに」 少し逡巡したあと、博雅が振り向かずに答えた。 烏帽子を直しながら晴明が簀子に出てくる。 博雅の背中を無言で見送る春花を、晴明もまた無言で見詰めていた。 了
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