12人が本棚に入れています
本棚に追加
博雅を座らせて、その足を伸ばしてやる。
「……やめ……っ触るなっ!」
博雅が悲鳴を上げた。
「血行を良くしたほうが早く直る。最初は辛いがすこしがまんしろ」
晴明が指貫の上から足をゆっくりとさすりはじめた。
「!……や……あぁっ」
博雅が身を捩る。
「やめろっ」
抗って胸を叩いてくる腕を捉えて、晴明が自分の背に回す。
「く……ッ、ぅんん……」
晴明の背にしがみついた博雅が、痺れた足にはしる感覚に耐える。
熱い息を耳元で吐かれて、晴明はなにかイケナイことをしている気分になった。
……けっこうクルな、これは。
「もう……やめろっ」
「なぜ?お前の為にやってるのに」
しれっとした顔で言う晴明を博雅が睨みつけた。
「……ッあ、あ」
足をさする手に力をこめられて、博雅が大きく喘いだ。
「……博雅」
その手がゆっくりと上に登ってきて膝頭を撫で上げる。博雅の目元に朱が刷かれた。
次の瞬間。 どんがらがっしゃん!と派手な音がして。
真っ赤な顔をして広縁に勢いよく出てきたのは、博雅。背後では几帳ごと蹴飛ばされた晴明が倒れている。
博雅の足元が今ひとつ定まらないのは、まだ足の痺れが完全にはとれていないかららしい。
朝露のきらめく庭に向かって、膝を抱えた春花が簀子に座り込んでいた。足音も荒く出てきた博雅を見上げる。
目が合って少しうろたえた顔になった博雅が、そのまま無言で庭に降りた。
「また笛を聞かせてくれるか」
背後から声がして、踏み出しかけた足が止まる。
「……そのうちに」
少し逡巡したあと、博雅が振り向かずに答えた。
烏帽子を直しながら晴明が簀子に出てくる。
博雅の背中を無言で見送る春花を、晴明もまた無言で見詰めていた。
了
最初のコメントを投稿しよう!