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首筋までまっかになった博雅に両耳を思い切り引っ張られた晴明が悲鳴をあげた。
「さて、この花から式を呼び出してみようか」
耳をさすりながら、晴明が円座に座りなおす。博雅がその隣りに腰を下ろした。
「異国の花か……言葉が通じるのか?」
真面目な顔で問うてくる博雅に、唇の端で笑い返す。
「花の本質に形を与えるだけだ。型の基本は俺の意識から出されるから、この国の女となりこの国の言葉を話すさ」
ふうん、とのみこんだ風でもなく博雅。
「植物は雌雄同体がほとんどだし、男形でも構わないが……。どうせ使うなら女の形のほうが楽しかろう?」
ふと博雅の眉が寄せられる。
「……そう言えばお前のところの式は、女子(おなご)ばかりだな」
美女を侍らせて何をしているやらと、口さがない殿上人の噂を思い出す。
それを聞いたとき怒りにまかせて強く否定したものの、晴明には自分に見せない面があることも博雅は感じていた。だからといって式と情を交わしているとは思えない。
が、たとえそうであっても、それは晴明の勝手。自分がどうこう言うことではない―――ないはずだ。
なんとなく黙り込んでしまった博雅を晴明が顧みた。
「俺は式は抱かぬよ」
心のうちを見透かしたような直截な言葉に博雅の頬が紅潮する。
「別に……誰も、そんな事は……」
視線を逸らしてもごもごと口の中で呟く博雅を、晴明が悪戯っぽい瞳で見やった。
「自分の式と関係を持つ陰陽師も中には居るがな……俺に言わせりゃそんなのは自慰行為だね」
ますます赤面する博雅を煽るように露骨な言葉を続けた。
「花から呼び出した式は所詮、花。蟲は蟲さ。外見をいくら美しく繕っても知性も感情も元来の存在とそう変わるものではない」
「そう……なのか」
巻き上げられた御簾の向こうに広がる庭。そこここに咲き乱れる野の花を博雅が見つめる。
「からくり人形を見たことがあろう」
突然変わった話題に博雅が視線を戻す。
「……祭りで見た」
「あの人形の型を作るのが陰陽師、中に入ってそれを動かすのが式と思えばよい」
ふむ、と博雅が考える顔になる。
「だから式に与える器は、術者自身の移し身のようなもの……己とコトに及ぶ趣味はないね」
それにだ、と円座で晴明が腕を組む。
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