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数日後、博雅は再び晴明の屋敷を訪れた。
野草の生い茂る庭の真ん中に仰向けに人が倒れているのに気づいて、ぎくりと足をとめる。
近づけば着ているのは薄紅の水干……春花と知れた。
「……何をしている?」
瞑っていた目がぱちりと開かれる。春花は無言でむくりと上体を起こした。
水干の背や流した髪には草が付き放題だ。苦笑した博雅が膝まずいて、その髪についた草や葉を摘み上げる。
ひとつ瞬きをした春花の瞳がひたと向けられて、博雅の指が止まった。
伸びてきた細い指に手をとられ、博雅の顔に朱が上る。
「……博雅か」
しばしその指を握った後、春花が言う。
はぁ、と何となく溜息をついた博雅が、脇に座り込んだ。
「ここから」
自分の目を押さえた春花が唐突に言う。
「入ってくる感覚が、まだよく分からない」
「目……か?」
「前はなかったから」
手元に咲く花にそっと指を触れ、地面に触れる。
「こうして触れると、分かる」
ぱさりと再び仰向けに倒れる。
「地に触れて目を閉じている方が、周りがいくらかはっきりする」
花であった時は、光や風や他の様々な存在を身体全体で捉えていた。
その存在が発する輝き、空気を伝わる波動を。
人の形を取り人の知覚を得た事で、以前の感覚の大半はもう失われてしまっていたが。
「……花に戻りたいか?」
博雅の問いに、答えはなかった。
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