第1章

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初秋の風の中、 博雅はひとり徒歩(かち)で晴明の家に向かっていた。 手には笹に挿した落ち鮎。 これを 肴に一献やろうというわけだ。 門をくぐり、 相変わらずの荒れた庭に少し苦笑する。 ふと足が止まったのは、 風に混じってほのかに甘い香りがしたからだ。 ……香か?それとも花? 今までに覚えのない匂いに戸惑う。 母屋に近づくとその香りがいっそう強くなった。 くちなしにも似た……しかしもっと清冽な、 甘やかに澄んだ香り。 「晴明」 簀子(すのこ)に立つ晴明を認めて博雅が声をかける。 「博雅、 いいところに来たな」 まぁ上がれと、 手を引かれる。
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