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初秋の風の中、
博雅はひとり徒歩(かち)で晴明の家に向かっていた。
手には笹に挿した落ち鮎。
これを 肴に一献やろうというわけだ。
門をくぐり、
相変わらずの荒れた庭に少し苦笑する。
ふと足が止まったのは、
風に混じってほのかに甘い香りがしたからだ。
……香か?それとも花?
今までに覚えのない匂いに戸惑う。
母屋に近づくとその香りがいっそう強くなった。
くちなしにも似た……しかしもっと清冽な、
甘やかに澄んだ香り。
「晴明」
簀子(すのこ)に立つ晴明を認めて博雅が声をかける。
「博雅、
いいところに来たな」
まぁ上がれと、
手を引かれる。
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