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春花がそっと博雅の膝に頭を落とす。
演奏に没頭してしまった博雅は、
もう気づかない。
思い出す。
お前は美しいね、
と撫でる指を。
もっと綺麗に咲いておくれと囁く甘い声を。
自分に語りかけてくれた、
愛しいひと。
その人のために美しく花弁を広げ高く香った。
プリズムのように、
記憶が断片的に甦っては消える。
波璃のように澄んで響く笑い声。
身につけた装飾品が触れ合ってたてる小さな金属音。
乾いた風の匂い。
陶然としていた春花の瞳が―――突然見開いて。
晴明がはっと身構えた。
あの時も、
あの人は自分の傍らで笛を吹いていた。
それが突然はたりと止んで。
不意に空気の色が変わった。
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