第1章

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「珍しいものを見せてやろう」 招き入れられた几帳の陰には一輪の赤い花。 素焼きの壺に土を入れた中にすっくと伸びる茎。 瑞々しく開いた緑の葉。 甘い匂いがいっそう強くなる。 先ほどからの香りは、 幾重にも重なった深紅の豪奢な花弁からと知れた。 先端が薄紅の花びらは、 中心に行くにつれてその紅の色を濃くしている。 「見た事がない花だな……なんというのだ?」 「名は知らない。 唐渡りの文箱の中に落ちていた種を見つけてな。 蒔いてみた」 美しいだろう、 と晴明が自慢げに言う。 「咲かせるまでけっこう手間がかかったぞ。 寒いのはだめらしいし」 「葉は長春花(こうしんばら)に似ているが、 花弁の枚数と趣は全く違うな……あッ」 思わず伸ばした博雅の指に鋭い痛みが走った。 人差し指の先に、 みるみるうちに紅い玉が盛り上がってくる。
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