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博雅の膝の上で握り締められていた指が痙攣してガッと広げられた。
その指先が蔓のように節くれだち、
長く爪を伸ばしていく。
異形の掌。
きり、
と噛みしめられた歯が鳴る。
博雅は己の中に没頭して笛を吹き続けている。
目を細めた晴明が懐に手を入れた。
と、
博雅の吹く笛の曲調が変わった。
穏やかな調べが部屋を満たしていく。
噛み締めていた春花の唇が、
ゆっくりと解かれる。
手が人のものに戻っていった。
……その瞳が閉じられて。
晴明が力を抜く。
閉じた春花の瞼から、
再び涙が零れる。
思い出す。
自分に触れていた指が冷えていくのを、
感じている事しか出来なかった悲しさ。
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